Health Management
健康管理と遺伝子検査
結果は隠さない。都合の悪いものも。
しかし、検査は出発点であり到達点ではない。ここから先が、ブリーダーの本当の仕事だ。
遺伝子検査は出発点であり、到達点ではない
ボーダーコリーには複数の遺伝性疾患のリスクがある。ROSCH KENNELでは、すべての繁殖犬に対して15項目の遺伝子検査を実施し、既知の遺伝性疾患に対する発症リスクを排除する繁殖管理を行っている。
しかし、正直に伝えなければならないことがある。現在の科学で原因遺伝子が特定されている犬の疾患は、推定700〜900種ある遺伝性疾患のうち約200種(全体の約4分の1)に過ぎない。残りの約75%は原因因子が未解明であり、遺伝子検査ではカバーできない領域だ。
つまり、「遺伝子検査済みであること」は最低限守るべきベンチマークであり、それだけで「完璧に健康である」とは言えない。ボーダーコリー固有のてんかん(有病率3〜20%)、ボーダーコリー・コラプス(BCC)、原発性水晶体脱臼(PLL)など、DNA検査では原理的に検出できない疾患も存在する。
検査の先にあるもの — ブリーダーの責務
近年、日本の犬界隈でも遺伝子検査がブームになっている。検査を行うこと自体は歓迎すべきことだが、本質はそこにはない。検査は健康状態を判断するための「補助・アシスト」であり、守るべき最低限のラインに過ぎない。
検査は最低基準であること
DNA検査でクリアしていることは、既知の因子について安全であるという最低限の確認だ。犬の健康を構成する要素は遺伝子だけではなく、栄養、環境、ストレス、社会化など、科学では「エピジェネティクス」と呼ばれる後天的な因子も遺伝子の働きを左右する。
独自の研究と観察を続けること
科学で未解明な大多数の事象に対して、ブリーダーは日々の飼育と観察の中で独自に学び、対策し続ける必要がある。データが語れるものはデータで語り、データが語れないものは自分の目と手と経験で語る — それが私たちの姿勢だ。
対面で譲渡する覚悟を持つこと
健康を守る上での本質は、各ブリーダーの意識にある。現状のペット市場はビジネス優先で流通量を増やすことに重きを置く一方、対面で丁寧に譲渡するという覚悟がなければ、真の意味での健康管理の徹底は困難だ。私たちは、すべての子犬を対面でお渡しし、お迎え後の継続サポートを約束する。
検査結果の読み方
Clear / クリア
変異遺伝子を持っていない状態。既知の疾患について安全に繁殖可能。
Carrier / キャリア
変異遺伝子を1つ保有。発症しないが、キャリア同士の繁殖は避ける。
Affected / アフェクテッド
変異遺伝子を2つ保有。発症の可能性がある。繁殖には原則として使用しないが、疾患の性質と気質を総合的に判断し、クリア個体との計画的な交配に限り起用する場合がある。
※ 不完全浸透の疾患(DM、CEAなど)では、アフェクテッドでも必ずしも発症するとは限らない。逆に、検査結果がクリアであっても、検査対象外の疾患リスクがゼロになるわけではない。
遺伝パターンの理解
クリア × クリア = 全子犬がクリア(検査対象疾患のリスクなし)
クリア × キャリア = 子犬はクリアまたはキャリア(検査対象疾患の発症リスクなし)
キャリア × キャリア = 子犬の25%がアフェクテッド(発症リスクあり) -- 当犬舎では行いません
アフェクテッド × クリア = 子犬は全てキャリア(発症リスクなし)。次世代でクリアに戻す計画のもと、気質や遺伝的多様性を優先して起用する場合がある。
不完全浸透の疾患(CEAなど)に限り、個体の健康状態と気質を総合的に評価した上で判断する。
検査項目
当犬舎で実施している15項目の遺伝子検査・健康検査。これらは現在の科学で原因遺伝子が特定されている疾患をカバーするものであり、すべての結果は各犬のプロフィールページで公開している。
コリーアイ異常(CEA)
眼の構造異常を引き起こす遺伝性疾患。視力低下や失明の原因となる場合がある。
好中球減少症(TNS)
白血球の一種である好中球が正常に産生されず、免疫不全を引き起こす致死性疾患。
セロイドリポフスチン症(CL)
神経細胞にリポフスチンが蓄積し、進行性の神経症状を引き起こす疾患。
感覚性ニューロパチー(SN)
末梢神経の異常により、四肢の感覚障害や運動失調を引き起こす疾患。
イメルスルンド・グレースベック症候群(IGS)
ビタミンB12の吸収障害により、成長障害や貧血を引き起こす疾患。
多剤耐性遺伝子(MDR1)
特定の薬剤に対する重篤な副作用リスクを高める遺伝子変異。
変性性脊髄症(DM)
脊髄の変性により後肢の麻痺が進行する疾患。中高齢で発症する。
緑内障(GCS)
眼圧の上昇により視神経が損傷し、失明に至る可能性がある疾患。
進行性網膜萎縮症(PRA)
網膜が徐々に萎縮し、進行性の視力低下から失明に至る遺伝性眼疾患。
神経セロイドリポフスチン症(NCL)
神経細胞の変性により、運動障害や認知機能の低下を引き起こす疾患。
遺伝性白内障(HC)
水晶体が白濁し、視力低下や失明を引き起こす遺伝性の白内障。
運動誘発性虚脱(EIC)
激しい運動後に四肢の脱力や虚脱を起こす遺伝性疾患。
レイン症候群(RS)
骨格の発達異常を引き起こし、成長期に関節や骨に影響する疾患。
股関節形成不全(HD)
股関節の形成異常により、痛みや運動障害を引き起こす多因子性疾患。触診による確認を実施。
肘関節形成不全(ED)
肘関節の形成異常により、前肢の跛行や痛みを引き起こす多因子性疾患。触診による確認を実施。
検査対象外の疾患
以下の疾患は、現在のDNA検査では検出できない。ブリーダーによる日々の観察、臨床検査、血統管理が、これらのリスクに対する唯一の防衛線だ。
特発性てんかん
ボーダーコリーでの有病率3〜20%。多遺伝子性と考えられ、原因遺伝子は未特定。DNA検査は存在しない。
ボーダーコリー・コラプス(BCC)
激しい運動後に四肢が脱力する疾患。原因不明で、除外診断でのみ確定される。
原発性水晶体脱臼(PLL)
市販のPLL検査はテリア系の変異を検出するもので、ボーダーコリーの原因変異は未特定。
早期成年発症聾(EAOD)
2〜6歳で発症する聴覚障害。原因遺伝子は未特定で、DNA検査は存在しない。
当犬舎の方針
キャリア x キャリアの交配は行わない
すべての検査結果は各犬のプロフィールページで公開している。キャリア×キャリアの交配は行わず、既知の遺伝性疾患に対する発症リスクを排除している。
キャリア犬は健康であり、クリア犬との交配には問題ない。しかし、キャリア同士の交配では統計的に25%の確率で疾患を持つ子犬が生まれるリスクがある。そのリスクを排除するために、当犬舎ではこの組み合わせを厳格に除外している。
遺伝子検査でカバーできるのは既知の因子のみだ。検査対象外の疾患や環境要因に対しては、日々の健康観察、臨床検査、血統データの蓄積、そして対面でのお引き渡しを通じて、総合的な健康管理を行っている。
検査機関
Orivet Genetics
米国を拠点とする遺伝子検査機関 Orivet Genetics と提携。世界中のブリーダーから信頼される検査機関であり、最新の検査技術と高精度な結果を提供している。
検査結果は各犬のプロフィールページにて証明書番号とともに公開している。